レストラン・バーの設立から運営までを解説

レストラン・バーの設立から運営までを解説

レストラン・バーの設立から運営までを解説

ベトナム・ホーチミン市内を例に飲食店を設立するまでのおおまかな流れと、コストや注意点などをまとめました。情報量の多い内容になっていますので、気になる点などを参照ください。

【STEP1】出店エリアの検討、および物件調査

まずは出店するエリアの候補を挙げます。
ホーチミン市の場合、下の画像にある通り行政区が16区・1市(2区、9区、トゥードォック区が合併)・5県(郊外)に分かれています。

  • データ
    ・面積:2,095km²
    ・構成:16区・1市・5県
    ・人口:約1000万人(2022年)
    ベトナム全国一の商業都市で国内最大の人口を有しています。※東京都の人口は1400万人。
    2020年12月から19地区の一部(地図上サイゴン川を挟んだ東部地区)が合併され、現在は16区、1市、5県となっています。

通常日本人が出店する場合、対象エリアは主に6つ(赤枠)となります。
それ以外のエリアは集客力や競争力の観点から不向きな印象ですので基本的には対象外と考えています。

それぞれの特徴を簡単に解説します。

区分特徴集客賃料面積
1区観光・行政が集まる中心部。日本人町も含まれ多くの日系飲食店やオフィスが密集しています。日本人や外国人、観光客をターゲットにする場合は1区に出店するケースが多いです。非常に高い高い小さい
2区欧米人が多く居住する地域。インターナショナルスクールが多く、飲食店も国際色豊か。高級住宅地も多くお洒落な雰囲気が漂っています。日本人、韓国人も多く居住しています。高い坪あたり単価は1区より安い大きい
7区韓国人が多く居住する地域。韓国人町は多くの韓国料理店で賑わっています。日本・韓国・台湾の学校があるためファミリー層が多く、ベトナム人富裕層も多い地域です。高い坪あたり単価は1区より安い大きい
10区ベトナムの飲食店、オフィス、住居、大学、病院が多くある地域。ローカルへの集客力は非常に高いため、ベトナム人ターゲットであれば非常に可能性が大きい地域と言えます。高い高い大きい
ビンタン区第二の日本人町と呼ばれるファンビッチャン通りがあり、コンドミニアムやアパートが多いため多くの日本人が居住しています。最近では日系飲食店の出店が一番多い地域です。普通1区に比べれば割安感がある小さい
フーニュアン区飲食街として有名なファンシックロン通りがあり多くのローカルレストラン、チェーン店などで賑わっています。ベトナム人ターゲットを考えるなら候補として挙げられる地域です。高い普通普通

【STEP2】資金送金

設立当初に必要となる費用は以下になります。
・不動産デポジット(賃料の2〜3ヶ月)
・前家賃1ヶ月
・法人設立費用
・施工費用のデポジット(工事費の50%)

資金送金の手段は①海外送金、②短期貸付、③親子ローンの3パターンのうちのいずれかで行います。②、③を行う場合は事前に法人設立と口座開設が必要となります。

【STEP3】法人設立

レストラン事業は外資100%でも合弁でも設立が可能です。ベトナム人代表者を立てて内資企業として運営している企業も多くあります。まずはメリット・デメリットを比較して会社形態を決定します。
【ブログ】ベトナムで現地法人をつくるには?それぞれの会社形態の違いと特徴

不動産契約の際に法人名義が必要となりますので物件の目処が立ち次第法人設立の手続きを行います。
設立にあたり必要となる情報は以下になります。
・代表者名、および身分証明書
・会社名
・住所
・携帯電話および電話番号
・メールアドレス

設立完了後に、銀行口座の開設を行います。

【STEP4】不動産契約

物件は足で探すか、エージェント経由で探すか、紹介をもらうかなど様々な方法がありますが、目星がついたら内見の問い合わせを行います。

ベトナムの賃貸物件の多くは基本的に住宅用として建てられており、区画借りではなく一棟をそのまま借りることが多くあります
建物自体は間口4M、奥行き16M〜20Mのサイズが多く、面積は1フロアあたりおおよそ70平米/20坪で4階建ての物件が多いことが特徴です。日本でいういわゆるペンシルビルをイメージしていただければ分かりやすいかと思います。そのため、1・2階は営業スペース、3階は住居、4階(屋上)は倉庫や洗濯などに利用されることが多いです。

1階のみの区画借りを行いたい場合はその旨をエージェントに要求し探してもらいます。

内見を行う際はエージェントまたはオーナーに以下の情報を確認します。
・賃料
・契約年数
・デポジット月数
・造作の変更可否

注意が必要なのがベトナムの場合、賃料が年々上昇するという特徴があります。契約年数によりますが、2〜3年は賃料据え置きその後10%上乗せまたは再交渉や、段階的に上がっていくパターンなどいくつかあります。基本的に契約年数は2〜3年の場合が多く、例えば契約年数5年で賃料据え置きなどはラッキーな物件になります。
投資回収を考える場合最低でも3年以上は借りたい方が多いかと思いますが、初期の契約段階で契約年数と賃料をどのように交渉するかが重要となります。

ベトナムで事業を開始するにあたり不動産トラブルはよくあることですので、別の記事で注意点をまとめています。
【ブログ】ベトナムの賃貸物件の特徴と契約時に注意するべき点

【STEP5】内装施工

内装施工業者は紹介かインターネット検索などで探して見積もりを依頼します。
施工会社はローカルと日系がありますが、デザインをゼロから作る場合、個人的には日系業者への依頼をお勧めします。
ローカル業者の場合は施工費用は安く抑えられますが、意思疎通が難しく発注と違うものが出来上がったり、利用する側の利便性が考慮されていなかったり、施工後の故障や不具合が多いためお勧めしません。ベトナム人マネージャーが取り仕切ることができ、1号店をコピーする2号店目以降などはローカル業者でもいいかもしれません。また簡易な修理や塗装、居抜き物件を修繕するだけで利用する場合などはローカル業者の方がお勧めです。

内装施工費の目安(例)
4M×18Mの70平米4階建ての物件を1~3階まで工事を行う場合、
・ローカル業者 700万円
・日系A社 1000万円
・日系B社 1300万円
といった具合に価格差があります。
日系企業同士の価格差は実績やデザインおよび施工の品質になります。ローカル業者に比べて割高なものの日本語でやりとりができることや施工後の保証対応などを考えるとローカルとのコスト差は埋まるのではないでしょうか。

  • 内装施工の流れ
    1. 現場調査、図面作成
    2. 概算見積もりの作成
    3. 基本合意
    4. デザイン、3Dパース、詳細図面、工期スケジュール、詳細見積もりの作成
    5. 造作の一部を変更する場合は建築ライセンスの申請
    6. 契約締結
    7. 施工費の50%をデポジットとして入金
    8. 着工
    9. 工事の進捗に応じて施工費30%を入金
    10. 竣工
    11. 施主による最終点検と確認
    12. 施工費残金20%を入金
    13. 引渡し

内装施工を依頼する際は契約書に工期スケジュールに応じた遅延金を定めます。特にローカル業者へ依頼する場合、遅延はよく起こる上に遅延金の支払いで揉めることもよくありますので注意が必要です。

【STEP6】ライセンス取得

レストランを営業する場合は、法人設立時にレストランライセンス(バーやクラブはバーライセンス)を取得します。

これ以外に営業に必要となるライセンスは、
・食品衛生ライセンス
・消防ライセンス
・酒類販売ライセンス(アルコール度数5.5%以上の酒類を販売する場合)
となります。

食品衛生と酒類販売の取得手続きは施主側ですべて対応しますが、食品衛生の場合は一部施工が関連しますので施工業者の担当者に確認しながら進めるのがいいでしょう。
また、消防ライセンスもスプリンクラーや緊急避難看板の設置などは施工に関連しますし、手続きは少し煩雑なため書類作成などは施工業者に相談するのがいいでしょう。

【STEP7】家具や備品の調達

店舗で使用する家具、装飾品、什器、備品、食器、調理器具などはホーチミン市内の市場や小売店、ECなどの通販で購入することができます。
こだわりの装飾品や食器などは国外から持ち込まれる方が多いです。

また製麺機などの特殊な機械は国内調達はできないため国外から輸送しますが、輸送準備に時間がかかりますので早めに手続きを開始した方が良いでしょう。国際輸送サービスは色々ありますが、飲食店関連で機械輸送が必要な場合は個人的にはDHLが最も使い勝手が良いです。

【STEP8】採用活動

日本に比べて非常に優位性が高いのが採用活動です。費用はゼロで求人が行え、スタッフも見つかりやすいため人材の確保が容易です。
求人方法で一番多いのはfacebookの利用です。
ただしマネージャーなどの高度人材や、オフィススタッフなどは人材派遣会社を利用した方が効率が良い場合もありますので、必要な人材に応じて対応を検討します。

ライセンスの取得や営業準備には日本語話者のベトナム人スタッフがいた方が便利ですので、マネージャークラスは早めに採用した方がいいでしょう。

人材要件や募集内容など、特に給与やインセンティブの設計はしっかり情報収集を行った上で決定します。ベトナム人スタッフはお金については非常にシビアに評価します。労働時間、給与、休日、インセンティブや残業代、ボーナス、福利厚生などは離職やトラブルを防ぐためにしっかりと設計しましょう。日本のサービス残業的な考え方や労働意識を求めるとほとんどの場合が失敗します。

【ブログ】ベトナム人スタッフ採用時の判断基準とトラブルにならないために気をつけたいこと
【ブログ】ベトナム人スタッフの採用前にしっかりと合意しておくべきポイント

【STEP9】労務

採用活動と合わせてスタッフの労働契約と社会保険加入の準備を進めます。アルバイトの場合でも業務委託契約のような形で契約を交わします。

日系飲食店では現金支給をしている店舗も多いですがその場合人件費の経費計上ができません。

【STEP10.1】営業までの準備(営業関連)

施工期間中に営業までの準備を同時に進めていきます。この際取引先や業者への依頼などはベトナム人スタッフに指示した方がよいでしょう。
・試食会の開催
・メニューの決定、メニューの作成
・インターネット
・POS
・クレジット決済や電子決済などの決済手段
・ユニフォーム
・看板やのぼり
・WEBサイト
・Googleマップ
・SNS(主にfacebook、Tiktok)
・カラオケ機器(バーなどの場合)
・氷(製氷器がない場合)

【STEP10.2】営業までの準備(就労関連)

上記と合わせて、日本からスタッフを出向させる場合は以下の準備が必要になります。
・住居
・生活用品等の購入準備
・滞在ビザ
・労働許可証の取得
・一時滞在許可証の取得
・銀行口座の開設
・医療保険の加入

【ブログ】ベトナム・ホーチミンの生活費はいくら?1ヶ月の費用目安【2024年版】

【STEP11】運営

日本と同様にグランドオープン前に知り合いのみを招待してプレオープンを行い、オペレーションなどの最終チェックを行います。

広告についてですが、
日本人集客を目的に広告媒体を利用する場合は、
・SKECTH(読み:スケッチ、フリーペーパー)
・Vetter(読み:ベッター、フリーペーパー)
・POSTE(読み:ポステ、オンライン)
・facebook(SNS)
・X(旧twitter)
などになりますが、費用対効果などをよく検討した方がいいでしょう。

ベトナム人集客の場合はSNSが主な媒体になり、全般的にfacebookの利用が多く、若年層はTiktokの利用が非常に多いのが特徴です。そのためオープンに合わせてTiktokerなどのインフルエンサーを活用して集客施策を打つのもいいでしょう。またGoogleMAPも有効です。

余談ですが最近増えているQRコードからオンラインメニューへ誘導し決済まで行う手段はベトナム人からの評価はいまいちです。導入はよく検討された方がいいでしょう。

さいごに

コロナ以降日本人ターゲットのみで売上を作るのは難しい傾向にあります。主な理由は円安と経済悪化による日本人駐在員や出張者数の減少ですが(2019年と比較して2023年の日本人滞在数は3割減)、逆にベトナム人が日本食を利用する機会は非常に増えています。近年人気の業種は寿司、ラーメン、居酒屋、焼肉で、丸亀製麺のうどんやCoCo壱のカレーも人気を博しています。
ホーチミン市1区にある日本人町(レタントン通り)はコロナ前はまさに日本人たちが多く集まるエリアでしたが、今では観光地化しており欧米人やアジア人の利用が急増しています。そのため、日本人以外の顧客を獲得することを念頭にお店づくりを進めた方がいいでしょう。

日本からのお客様からよく聞かれる質問のひとつに、「平均的には○○はどうですか?」「普通は○○はどうですか?」というのがありますが、ベトナムの場合こうした視点で顧客やマーケットを理解しようとするのは止めた方がいいでしょう。理由はベトナム人の中でも出身、所得、仕事、年齢などによって嗜好に特徴があり、セグメントは日本以上に細分化されています。またホーチミンなどの主要都市ではそこに国籍も入ってきますので、顧客ターゲットへの解像度はなるべく高く、具体的に想定した方がいいと言えます。

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